大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)1841号 判決 1989年4月12日
控訴人・同附帯被控訴人(原告)
西野直和
被控訴人・同附帯控訴人(被告)
有限会社マルシゲ
ほか一名
主文
一 控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。
二 附帯控訴に基づき、原判決を、次のとおり変更する。
三 附帯控訴人ら(被控訴人ら)各自の附帯被控訴人(控訴人)に対する、昭和六〇年五月四日午前一一時四〇分頃境市宿院町東二丁一番二五号先国道二六号線上において発生した交通事故に基づく損害賠償債務が、金一二七万八六四六円を超えて存在しないことを確認する。
四 附帯控訴人ら(被控訴人ら)のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人(附帯控訴人)の、その余を被控訴人ら(附帯控訴人ら)の各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 昭和六三年(ネ)第一八四一号控訴事件
1 控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)
(一) 原判決中控訴人敗訴部分を取消す。
(二) 被控訴人ら(附帯控訴人ら、以下被控訴人らという。)の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
との判決。
2 被控訴人ら
(一) 主文一項と同旨
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決。
二 平成元年(ネ)第一七七号附帯控訴事件
1 被控訴人ら
(一) 原判決中被控訴人ら敗訴部分を次のとおり変更する。
(二) 被控訴人ら各自の控訴人に対する昭和六〇年五月四日午前一一時四〇分頃境市宿院町東二丁一番二五号先国道二六号線上において発生した交通事故に基づく損害賠償債務が金八万二三五〇円を超えて存在しないことを確認する。
(三) 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。
との判決。
2 控訴人
(一) 本件附帯控訴を棄却する。
(二) 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
との判決。
第二当事者の主張
次のとおり、訂正、付加するほか、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正等
原判決二枚目表一一行目の「一―二五」を「一―二五先」と訂正し、同裏四行目の「七月四日生」の次に「、事故当時」を加え、同七行目の「信号待」を「信号待ち」と、同一一行目の「原告が」を「被控訴人らにおいて」と各改め、同三枚目表二行目の「争い、」の次に「被控訴人らに対し」を、同一〇行目の「原告」の次に「ら」を各加え、同裏三行目の「信号待」を「信号待ち」と、同四行目の「注視するべき」を「注視して衝突を回避すべき」と各改める。
二 被控訴人の当審における主張
控訴人は、本件受傷の治療のために入通院した一六一日間は休業のやむなきに至つた旨主張するが、控訴人は右入院中の昭和六〇年五月一四日台湾へ行き商談の上契約を結び、更に退院後の同年六月四日から七日まで再び台湾に赴いて右契約の解約交渉を行つている事実があるから、少くとも控訴人は右退院後の同年六月以降は、就労可能な状態であつたものというべきであり、通院期間中の休業損害は全額否定されるべきである。
第三証拠
原審及び当審記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因及び抗弁1、2についての認定、判断は、原判決理由一及び二の1ないし3(原判決六枚目裏四行目から同七枚目表一一行目まで)に説示するところと同じであるから、これを引用する(但し、同六枚目裏末行の「甲第六」を「甲第五」と改める。)。
二 損害について
1 治療関係費(入院雑費、通院交通費を含む。)
成立に争いのない甲第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第一二、第一三号証、第一五ないし第一七号証及び弁論の全趣旨によると、控訴人が負担した治療関係費は合計一三二万八二一〇円であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして治療関係費が右額を超えて、控訴人主張の如く金一〇〇〇万円であると認めるに足る証拠はない。
2 休業損害
控訴人が本件事故により頸部挫傷、左上腕神経麻痺、腰部挫傷の障害を受け、昭和六〇年五月四日から同月三一日まで二八日間入院し、その後昭和六一年一月一〇日まで通院(通院実日数一三三日)して治療を受けたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第二四号証並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、本件事故当時、漬物の製造販売を業とする西野食品株式会社の取締役会長をして月額二〇万円の給与を受ける傍ら貿易の仕事もしていたものであるが、右入通院期間の計一六一日間は通常の業務に従事することができなかつたことが認められる。
被控訴人は、控訴人は退院後の昭和六〇年六月四日(出国)から七日(帰国)まで台湾へ渡航し契約の改訂交渉などの商談を行つているから、退院後の同年六月以降は就業可能な状態であつた旨主張するが、成立に争いのない甲第二三ないし第二六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第二八号証並びに当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、昭和六〇年五月、訴外東山清らから依頼されて台湾の業者との間で蝮の購入契約をし、これを輸入することになつたが、その後間もなくして右東山らにより代金の減額交渉、それが不可能ならば解約して貰いたい旨懇請され、同年六月四日(出国)から七日(帰国)まで台湾に渡航し、右業者との間に契約改訂の交渉を行つたことが認められるけれども、当審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、当時、退院後間もない時期であり、受傷の影響が未だかなり残つていて旅行ができるような健康状態ではなかつたが、東山らの懇請もだし難く、早急に契約改訂の話の結末をつける必要から不自由な身体を押して渡台したものであることが認められるのであるから、被控訴人主張の如き事実があるからといつて、右一事をもつて控訴人が退院後の昭和六〇年六月以降就業の不可能な状態であつたものと即断することはできない。他に前記認定を覆すに足る証拠はない。
そうすると、控訴人は、右入通院の一六一日の間、休業のやむなきに至り、月額二〇万円の割合による給与相当の得べかりし利益を失つたものというべきである。即ち休業損害は、次のとおり金一〇五万八六三〇円と認められる。
200,000×12×161/365=1,058,630
本件全証拠によるも、控訴人の本件交通事故前三年間の平均年収が金一八〇〇万であるとの事実を認めるに足りない。
3 入通院慰藉料
控訴人は、治療のため入院二八日、通院一三三日に及んだのであるから、入通院慰藉料は金七〇万円と認めるのが相当である。
4 後遺障害による逸失利益
控訴人が本件事故により頸部挫傷、左上腕神経麻痺、腰部挫傷の障害を受け、入通院治療の後、昭和六一年二月二二日症状固定し、後遺障害等一二級一二号に認定されたことは、当事者間に争いがない。
右事実によれば、控訴人の後遺障害による労働能力喪失率は一四パーセントと認めるべく、控訴人は本件事故当時六四才であつたことは当事者間に争いがないところ、その労働可能年数は六七才までの三年間と見るべきである。
そこで控訴人の月収を二〇万円として右期間における逸失利益の現価を算出すると、次のとおり金九一万七六一六円となる。
200,000×12×0.14×2.7310(ホフマン係数)=917,616
5 後遺障害慰藉料
控訴人の前記後遺障害等級によりすると、後遺障害慰藉料としては金二〇〇万円をもつてするのが相当と認められる。
6 填補
控訴人が、本件障害金のうち、自賠責保険金及び被控訴人から金三五二万一三四〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第九、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第三、第一一、第一四号証、前掲第一二、第一三号証、第一五ないし第一七号証並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件損害金につき右金額を含め合計金四七二万五八一〇円の支払を受けていることが認められ、右確認を覆すに足る証拠はない。
7 以上のとおり、控訴人が本件事故により被つた損害は、前叙1ないし5の合計金六〇〇万四四五六円になるところ、これより6の填補分を控除すると、損害の残額は金一二七万八六四六円となる。
三 以上のとおりとすれば、被控訴人らは、各自、控訴人に対し、本件損害の残金一二七万八六四六円の支払をなすべき義務があると認めるべく、被控訴人らの本訴請求は、被控訴人ら各自の控訴人に対し負担する本件交通事故に基づく損害賠償債務が右額を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるからこれを認容をすべく、その余は失当としてこれを棄却すべきである。
よつて、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人らの附帯控訴に基づき原判決を右認定のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 長久保武 諸富吉嗣 鎌田義勝)